★ふーがくおりてぃー★

実験中\(^o^)/
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100円ショップ
由兎たちの通う桜山学園から自転車で10分。
駅前の地下駐輪場に二人は自転車を停めた。
数年前――由兎たちが小学生の頃までは駅周辺放置自転車の嵐だった。
それに皆便乗してどこに停めようが誰に文句を言われることはなかったが、
最近は駅の再開発も進み、監視員までもが配置され、
決められた地下の駐輪場に停めなければ即刻撤去の対象にされてしまう。
お陰で駅前は綺麗ですっきりとした景色にはなったが、
ちょっと商店街で買い物という市民には、
いちいち地下まで潜らなければいけないので、いささか不便で有難迷惑でもある。

目指す場所は、その地上真上にある駅南口ターミナルから、
真っ直ぐに伸びる商店街のちょうど中程にある8階建ての商業ビル。
行き先を告げられず由兎に連れられて来た遼は「ちょっと待て」と言わんばかりに、
ずんずん中に入ろうとする由兎の腕を掴んで引き寄せた。

「なぁ由兎。付き合えって・・・ここ?」
「うん!」

笑顔で答える由兎に遼は少しだけ不満そうな顔を作った。
てっきり遊びの誘いか何かだと思っていたのだろう。

「もう早く行くよ!」

結構楽しいんだから!と、由兎は遼の腕を振りほどき、
『100円SHOP』と掲げられたその正面入り口へと、
浮かれ足で吸い込まれていった。

「普通デートで百均はねーだろ・・・」

遼はボソッと一人ごちてから、由兎の後に続いた。
全面ガラス張りで広々と開け放された店内は、
地下1階から地上8階まで、全てのフロアーの商品が100円均一。
中には300円、500円の商品もあるが、
それでも物によっては庶民にとってかなりのお買い得品だ。
店内は平日午後ということもあって、主婦や学校帰りのティーンたちで混みあっている。
遼は既にその人混みに消えてしまった由兎を探そうとするが、
背の低い埋もれた由兎を探し出すには一苦労だ。

「しょーがねーなー・・・」

遼は溜め息をついて、制服のズボンから携帯を取り出した。
そして発信履歴を呼び出して、一番上に見慣れた目的の人物の名前を確認する。
部活の朝練の隙を見て、
朝の弱い由兎にいつものモーニングコールをしたきり今日は一度も使っていない。
つい遼は、寝ぼけた声で応答する由兎を思い出して、
その見えない寝起き姿を想像してしまう。
(やべー、かわいい・・・)
あからさまに場違いに遼の引き締まった顔が緩んでいる。

「・・・って、何考えてんだオレっ!」

慌てて周囲の目を気にして回りを見渡したが、
幸運にも誰にも見られていないようだった。
ホッと一息ついた遼は、再び液晶画面に視線を落とし、
中央の決定ボタンを押そうとすると、

ドンッ!カラカラカラ・・・

「あっ!!」

不意に後ろから誰かにぶつかられた拍子に手から携帯が零れ落ちて
更に踏み止まろうとした自身の右足で、
自ら彼方へ蹴り飛ばしてしまったのだから運が悪い。
これぐらい部活でもナイスシュートが決められれば、
レギュラー昇格もそう遠くはないだろう。
が、今の遼には只、探し物が一つ増えただけでしかなかった。

途方にくれる遼が、まずは携帯・・・とあたりの床をキョロキョロと探していると、

「なぁ!これ、アンタんじゃね?」
「へえっ?」

不意にかけられた男の声に、びっくりして思わず声が裏返ってしまう。
目の前には一時行方不明だった遼の携帯が差し出されていた。

「あ、はい!そーです!オレんです!ありが――」

とうございますと言いかけて、遼は相手の顔を改めて見ると、
とてもこの場所にはそぐわないようなパンクファッションに身を包み、
髪は金色、間近で見てもとても整ったキレイな顔立ちをした少年だった。
ヤンチャそうな態度に、多少子供っぽさが残るが
年の頃ならきっと遼や由兎と同じぐらいか少し上なのだろう。
それよりも遼はどこか彼に違和感を感じていたらしく、
まじまじと彼の顔を覗き込んでは何かを思い出そうとしていた。

「あ・・・れ?」
「何?」
「どっかで会ったことありますよね?」

やはり以前に会ったことがあるのだろうか。
思い切って聞いてみた遼に向かって彼は、一瞬怪訝そうな顔付きになったが
急に表情を変えてニヤっと悪戯っ子のように笑った。

「ないけど。てか、もしかしてこれ、ナンパ?」
「なっ・・・!!そ、そうじゃなくてっ・・・!!」

予想もしてなかった返しに遼の思考回路はパニックを起こした。
そもそもナンパなどしたことがないし、しかも男が男に・・・と訳が分からなくなる。

「ぷっ・・・何マジになってんだよ。耳まで赤くなってかわいー!」
「うわっ・・・!!」

男にいきなり耳たぶを摘ままれ、変な声とともに
体もビクッと勝手に反応してしまい、思わず遼は後ずさりをした。
しかも男に可愛いと言ったことはあっても、
まさか自分が言われてしまう日が来るとは夢にも思ってなかったのだろう。
紅潮したまま唖然と立ち尽くしていると、目の前の男はそれを気にする風でもなく、
ほらよ!と遼に携帯を投げてよこし、
「おれも有名になったなぁ」と訳のわからない独り言を言いながら、
店の外へと出て行ってしまった。

「な、なんだったんだ・・・アイツ」

暫くその後姿を眺めていると、
背後から聞きなれた声が聞こえてきた・・・というよりは襲ってきた。

「遼ー!!もーう!何やってんだよー」
「あ、由兎」

もうひとつの大事な探し物であった由兎がすでに会計を済ませ、
遼の元に罵声を浴びせながらヨレヨレと近づいてきた。

「あ、由兎・・・じゃないよまったく!急にいなくなって。俺、探したんだからっ!」

それはこっちの台詞だ。
遼はそう思ったが、実際探し回ったわけではないので、反論するのはやめておいた。

「買い物は終わったのか?」
「うん、ホラ!」
「こんなに!?」

見れば100円グッズが大量に詰め込まれた特大ビニール袋が2つ。
由兎はそれを片手ずつ両方の手に重そうにぶら下げていた。
細身の体はバランスを取るためか右に傾いている。
よくこの広い売り場で、短時間で掻き集めたものだ。
そう遼は感心していると、由兎はニカッと笑って、

「はい!心配かけた罰として半分持ってよね!」

と、由兎が迷わず右手の袋を差し出し、遼が渋々受け取ると
同時に由兎の体が左に傾く。

「初めからこれが目的だったんだろ・・・」
「えへへー。バレた?」

舌を出して笑う由兎に遼は空いている手を軽く握り、
由兎の頭上にコツンと落とした。

「よし!じゃあもう一軒!」
「はぁ!?まだ買うのかよっ」
「今度が本命なの!行くよ!」

由兎の有無を言わさぬ号令で、店を出て並んで歩き出す二人。
その荷物の重さに早くも肩にダルさを感じる遼の横で、
由兎はビニール袋をぶんぶん振り回しながらご機嫌で歩いている。
不審に思い、遼がその遠心力に負けずにその袋を凝視すると、
由兎のそれには意図的にか、
何層にもカラフルな画用紙だけが丸めて詰め込まれていたのがわかった。
(ったく・・・)
それでも頼りにされているのが嬉しかったのか、文句を言う気にはならなかった。
遼はあえてそれには気づかない振りをして、
由兎の下手くそなスキップを道標に、夕暮れを背に歩き出した。
月に兎、森には雨を。 | permalink | comments(254) | -| -
中庭
昼休み。
時折、由兎の淡い黒髪を柔らかく揺らす風は、
まだ少しひんやりとした冷たさを残してはいるが、
午後に差し掛かる春の陽射しは温かく、心地がよい。
購買部で昼食を無事に調達した二人は、
いつもの場所――中庭の中央に植えてある一本の大きな桜の木を目指していた。

「っしゃ!一番乗りー」

遼がその木の脇にあるベンチにドカッと勢い良く腰を下ろすと、
ベンチがギシリと嫌な音を立てる。

「もう、遼・・・慌てすぎ」
「由兎の体力が無さすぎなんだって!ホラ早くここ!」

遼が二人掛けのベンチの隣を開けて手のひらでポンポンと由兎のポジションを促す。
由兎は遼の早歩きにも追いつくのがやっとだったのだろう。
くしゃくしゃに握り締められた購買部の紙袋が、じんわりと汗で濡れていた。
その袋を自分と遼の間に置いて、由兎はいつもの場所に腰を下ろした。

「はぁ〜」

既に1個目のパンを半分食べ終わるかの勢いの遼の隣で、
由兎はようやく落ち着いて溜め息を一つついた。
地面に散った花びらは舞うことなく静かに土に帰るのを待っている。
実際はその前に放課後の掃除当番によって灰となって空へと帰っていくのだろう。
そんなことを思いながら暫く由兎は無言で桜の木を見上げていた。

「由兎?食わねーの?」
「え?うん・・・」

遼に大量に二人分――いや量的には三人分か――
のパンが入った紙袋を差し出されるが、
由兎はそれを否定とも肯定ともとれる返事で流す。

「それだからお前はでっかくならねーんだぞ。ホラ食え!」
「うるさいなぁ・・・」

遼は紙袋の中から揚げ物系のパンを避けて、
自分のシメに取っておいたいちご味のモッフルを
少し躊躇いながらも由兎に差し出す。
由兎は「いいの?」と目で訴えながらそれをそっと受け取った。
が、その表情はどこか曇りがちだ。

「そーいや、お前授業中も溜め息ついてたよな。具合いでも悪いのか?」
「・・・・・・」

遼はこうしていつも由兎を見ている。
そしていつでも気遣ってくれるのだ。多少強引な所はあるけれど・・・。
そんな遼の隣が由兎にはとても居心地が良く、
穏やかな気候も手伝ってか、つい胸の内に抱えているすべてを吐き出したくなる。
きっと遼なら、わかってくれる・・・。
でもそれは自分が全てを吐き出して楽になりたいという只の甘えなのかもしれない。
でも・・・

「遼」
「ん?」

由兎が宙を仰ぎながらポツリと隣にいる遼を見ずに呼びかける。
遼はもぐもぐと口を動かしながら何となしに相槌を打った。

「遼はさぁ、好きな人とかっているの?」
「ぶほっ・・・!!」

思ってもいない唐突な由兎の問いに、
遼は思わず咳き込んで、頬張っていたパンを吹き出した。

「もう、大丈夫?」

焦って心配するというよりは、
まるで手のかかる子供を慣れた手つきであやす母親のように
由兎は遼の背中を擦って落ち着かせる。

「な、なんだよ急にっ・・・!?」

饒舌な会話が得意でない由兎は、いつも唐突に話題を切り出す。
それには長年の付き合いで遼も慣れてはいたが、
いきなり「好きな人はいるか?」との
この告白の前菜めいた台詞にはさすがの遼も驚きを隠せなかった。
それでも由兎は遼の咳が治まるのを確認すると、気にせずに続ける。

「遼はどんな子がタイプ?」
「あ?あぁ・・・そ、そーだなー」

遼は気づかれないようにチラリと由兎の方を見た。
が、どこでどう間違えたのかその視線はあっさりと由兎に勘付かれてしまう。

「何?」
「え?い、いやっ・・・ゴホンっ!そ、そーだなー」

声に出てたか!?と遼は一瞬焦って、
パンくずを払う振りをして口元を覆ってごまかした。

「・・・オレは、可愛いやつかな」
「かわいい?」

由兎は小首を傾げながら遼の目を覗き込むようにして言葉を繰り返す。
それをこの世では可愛いというのだ。
遼は思わず由兎にギュッと抱きつきたくなる衝動に駆られた。

「あははは!もーう!やだエリカ!それマジでウケるんだけど!!」
「でしょー!もうかなりあたし残念すぎて無理」

いつの間にか中庭は女子生徒たちの群れで溢れかえっていた。
中にはカップルで中むつまじく弁当を広げているものもいる。
きっと彼女の手作りなのだろう。
由兎たち同様、昼時にはいつもこうしてこの中庭が生徒たちの憩いの場になっている。
目の前を通り過ぎた女子生徒たちの会話で、
遼の込み上げた熱い欲望は一気に萎えてしまった。

「そ、そーゆーお前は、ど、どーなんだよっ」
「俺?俺は・・・」

ゆっくりと何かを考えるように由兎は桜を見上げて、
それから暫く沈黙が続く。
遼は高鳴る胸の鼓動を悟られないようにゴクリとツバを飲み込んで
乾ききった喉を無理矢理潤した。
桜を見上げたまま虚ろな表情で固まる由兎の顔は儚げで、
どんどん白く、透き通っていき、そのまま消えてしまいそうだ。
遼はまるで異空間にでも吸い込まれそうな不思議な感覚に陥った。

「遼・・・」
「え?」

不意に自分の名前を呼ばれ、現実に引き戻された遼はドキっとして、
聞き返す声が思わず裏返る。
好きなタイプはと聞かれ、確かに今自分の名前を聞いた。
だが遼にはすぐには信じられなかった。
由兎の幻想的な雰囲気に呑まれた幻聴だったかもしれない。
でももしそれが確かなら・・・。
遼はもう一度確かにその名前を聞きたくて、
未だじっと動かない由兎に向かって声を発しようとした矢先、

「毛虫!」
「へっ!?」

顔面蒼白で立ち上がった由兎から視線を
頭上に移すと斑模様にもこもこと毛羽立った1匹の幼虫が
遼のワックスで固められた短髪の先端に着地する寸前だった。

「ば、馬鹿っ!もっと早く言えって!!」

抜群の運動神経を生かして遼はベンチから転がり落ちるように
その大きな体で地面へズザザ・・・っとダイブした。

「ぷっ、ぷふっ・・・あははっ!遼、だっさー」
「わ、笑うなっ」

いや、笑った・・・。
一瞬大きな丸い目を更に丸くしてきょとんとしていた由兎が急に吹き出して笑い出した。
遼もそれには呆気に取られたが
思えば今日初めて由兎が笑った顔を見た気がして、内心ホッとした。
笑い出したら止まらない由兎に「いい加減にしろ!」と文句をつけながらも
口とは逆に、遼はいつまでもその笑顔を見つめていたいと思った。

「はぁはぁ・・・ごめんごめん!あ!そーだ遼!今日の放課後ちょっと付き合ってくんない?」
「え?あぁ・・・今日は部活もレギュラーミーティングだけだし」
「あ、じゃあ俺、終わるまで待ってるよ」
「それ、嫌味か?」
「あ!遼はまだレギュラーじゃなかったんだっけ?ぷふふ・・・」
「うぐっ・・・。おまえー・・・こうしてやる!」

遼は地面に降り積もった花びらを一掴みしては、
再びケラケラと笑い出す由兎に向かって何度も何度も投げつけた。
樹木の隙間からキラキラと零れ落ちる春の陽射しの中、
ヒラヒラと舞うピンクの花弁の向こうで笑い続ける由兎の姿が
遼の目には桜の妖精のように映っていた。
月に兎、森には雨を。 | permalink | comments(20) | -| -
2年D組教室
「―――だとすると、二直線y=xとy=3xのなす角を二等分する直線の・・・」

つまらない・・・。

窓際の席で頬杖をつきながら、午前中最後の授業に、
月島由兎は誰を見るわけでもなく教室を見渡した。

黒板の文字を必死でノートに書き写す者、時計をチラチラ気にする者、
堂々と机に突っ伏して夢の世界に旅立つ者もいれば、
宝石のようにデコレートされたお手製のミラーで見慣れた顔を覗き込んでいる者もいる。

別段騒ぎ立てている者もいなければ、教室を抜け出していく者もいない。

端から見れば、それは何でもない普通の高校の静かな授業風景に見えるだろう。
何でもない時間。

夢も意志も何もないその無機質な時間が、由兎にはすごく苦痛だった。

教壇の男は、場違いなブランドもののスーツに身を固め、
ややこしい数式や記号が並ぶ小難しい話を誰に聞かせるわけでもなく
低い声で淡々と語っている。
生徒にも自分の言葉にもまるで興味がないように。
気にしているのは時折スーツに付着する白い粉くらいだ。

「はぁ〜・・・」

由兎が視線を窓の外に移し、溜め息をつくと、
それにあわせるかのように四方を校舎に囲まれた中庭で
既に散った桜の花びらが春の突風にさらわれて再び宙に舞う。

キーンコーンガーン・・・ガガッ・・・−ン

学園創立以来ずっと使用しているのだろう。
磨り減って音の割れたチャイムが教室に鳴り響く。
にわかに教室がざわつき始め、生徒に教室に・・・徐々に春の息吹が吹き込まれる。
冬の眠りから目覚める森の動植物たちのようならば聞こえはいいが、
死人が甦ると言うほうがしっくり来るだろう。
実際これだけ蘇生が清々しいのであれば、
ゾンビも忌み嫌われることなく皆救われると言うものだろう・・・。

ただ一人、無表情のままの数学教師は誰にともなく、今日はここまで・・・と言って、
50分かけて大量に書き上げた黒板の数式を何の躊躇いもなく消していく。

そしてそのまま眉間に縦皺を刻んでは、スーツの粉を払いながら廊下へと出て行った。

(そんなに嫌ならやめればいいのに)

スーツも教師も・・・。
由兎はそう思ったが、それよりも必死でノートに書き写していた生徒が
さぞかし焦っていることだろうと、そちらを見ようとした矢先、
いきなり後方から体を締め付けられて、思わず息が詰まる。

「んぐぁっ・・・!」

身動きの取れない体で、首だけで振り返ると、
案の定、後ろの席の滝沢遼が、
机に身を乗り出して中腰になりつつも由兎の小さな体を椅子ごと抱き締めている。

「由兎ぉ〜。淋しかったぜー」
「ちょ、遼!顔スリスリすんなって!」
「由兎のほっぺ柔らけー気持ちいー」

俺はペットじゃない!って言う由兎の抗議もむなしく、
遼はわざと切ない表情を浮かべながら、由兎の右頬に自身の左頬を擦り付けてくる。

依然、由兎の華奢な体は遼の大きな腕に抱き締められたままだ。

制服越しにでもその筋肉質な男の腕の感触が感じられる。
普段気にしていないと言うと嘘になるが、
こうもあからさまに自分の体のひ弱さと比較せざるを得ない状況に陥ると、
その成長の差に同い年の男として恥ずかしさが胸を込み上げてくる。

「も、もう離れろって!」

力いっぱい振りほどこうとするが運動部で鍛えた遼の体力には到底敵わない。

「だって50分も離れ離れだったんだぜー。オレ淋しくって淋しくって」

たかが50分話せないくらいで何がどう淋しいんだか・・・と由兎は呆れそうになる。

「離れ離れって・・・席、前後じゃないか。休み時間はいつも一緒だし、家だって・・・」
「ホントお前オレのこと、なーんもわかってないよなー」
「え、何が?」

遼とは家も隣同士で小さい頃からずっと一緒に育ってきた、言わば幼馴染だ。
16年間―――と言っても幼稚園以前の記憶は由兎にはないが・・・
ずっと当たり前のように一緒にいて由兎は遼のことなら
何でもわかっている仲だと思っていた。
と言うより嫌でもわかってしまうという方が正しいかもしれない。
それを今更何がわかってないと言うのだろう。

「後ろの席じゃ由兎の可愛い顔が見れないだろ?」
「はっ!?」

前言撤回。遼はこうして時々訳の分からない事を言っては、
それにいちいち反応する自分を見ては楽しんでいる。
由兎は、遼の悪戯っ子のようにニシシと笑う顔を訝しげに見上げた。
大体、男に向かって可愛いだなんて・・・確かにこの世に可愛いと称される男は存在する。
それは由兎にも充分理解出来ることだ。

実際、由兎は高校生にしては幼すぎる身長。
部活動にも所属していない為、体を動かすといえば、授業の体育の時間のみで、
一般的な男子よりも筋力が無く華奢な体つきをしている。
極めつけに童顔で女顔とくればもうそれは『可愛い』の何者でもないだろう。

本当にそんなことがあるのかは知らないが、
ここが男子校ならば確実に由兎は学園のマドンナとして狙われてしまうに違いない。
高校が共学で本当によかったよな・・・と遼が由兎の肩を叩くこともしばしばだ。

ただ由兎本人にはその意識がまったくなく、
自分が可愛いと言われるということまでは理解が及ばず、
ただ単に『高校で彼女を作るぞ!』
という意味での共学万歳な遼の発言だろうぐらいにしか思っていなかった。

「遼。そーゆーのは俺じゃなくて、好きな女の子にでも言ってあげたら?」
「ああああああ・・・・やっぱお前はわかってねーし!」
「?」

遼が自ら両手で頭を抱えるポーズをしたお陰で、
由兎は漸く体の自由を取り戻した。
その開放感に、
ふぅ〜っと詰まった息を吐き出しながら、ブレザーの乱れを直していると、
それを待つ間に平常心を取り戻した遼が、
勢いよく由兎の柔らかく冷たい手を捕んだ。

そして廊下・・・ではなく、そのまま中庭への出入り口でもあるサッシを勢い良く開き、
慌てて注意する由兎を無理に引っ張り、購買部への近道を選び外へ飛び出した。

「走るぞ!早く行かないとモッフル売り切れちまう!」
「ちょ!もっとゆっく・・・はぁはぁ・・・りーっ!!!!」

駆け抜ける二人の足音に再び宙を舞った桜が、三たび宙を舞った。
月に兎、森には雨を。 | permalink | comments(21) | -| -
初めて・・・
―――僕は、君に恋をした・・・。

・・・うわ、キモっ!!

小説じゃあるまいし、そんな気取ってどうすんだよ俺っ!

うーん・・・。

ストレス発散にはブログで思ってることを吐き出すのが一番!って、
友達に勧められて登録したものの・・・
初めてのブログって一体何から書いたらいいんだろ。
それになんかちょっと恥ずかしい気もするし・・・。
って言ってもどうせ読んでる人なんていないだろうし、
素直に思ってること書いていけばいいんだよね。
大体こーゆーのは自己満足の世界って言うし!

あーでも、今の俺の頭の中って言ったら、あることでいっぱいで・・・。

あ、その前に自己紹介してなかった!

名前は、由兎(ゆと)で、年は16才。
よく身長が低いのと童顔なせいで「中学生?」なんて言われるけど、
これでもれっきとした高校二年生!
それはまだいいとしてもたまに女子と間違われるのだけはマジ勘弁!
今日だって行きつけの百均で・・・ってこの話は思い出すだけでムカツクからいいや。

えっと、恋人はいません!でも募集もしてません!
だって俺には心に決めた大好きな人がいるから!
ま、片思いだけど\(^o^)/

だから今の俺は毎日その人のことで頭ぐるぐるなんだよね。
はぁ〜切ない。
しかもその相手っていうのがさぁ・・・

あ!ご飯だって兄貴が呼んでるから続きはまたあとで!
月に兎、森には雨を。 | permalink | comments(25) | -| -
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